講演会

第3回

国際シンポジウム「教育評価としての学生調査」
―学生の成長を測定する方法の開発―

日時2007年2月27日(火)13:30~16:30
会場今出川キャンパス 明徳館1番教室
事例報告■"The Fourth Lens: Assessing Institutional Policies, Practices, and Structures"
「第4のレンズ-大学における政策、実践、組織を評価するために」
初年次教育政策研究センター所長 Randy L. Swing氏

■"College Student Surveys and Institutional Improvement in the United States"
「アメリカにおける大学生調査と組織の改善」
カリフォルニア大学ロサンゼルス校高等教育研究所(HERI)副所長 John H. Pryor 氏

■"Improving Learning and Teaching: Through the Results of Student Survey"
「学習と教育の改善に向けて:学生調査の活用」
同志社大学教育開発センター副所長 山田 礼子 氏
コメント国際基督教大学名誉教授 絹川 正吉 氏
備考平成18年度科学研究費プロジェクト「転換期の高等教育における学生の教育評価の開発に関する国際比較研究」と共催

シンポジウム概要
2月27日午後1時30分より、国際シンポジウム「教育評価としての学生調査-学生の成長を測定する方法の開発-」を平成18年度科学研究費プロジェクト「転換期の高等教育における学生の教育評価の開発に関する国際比較研究」と教育開発センター講演会との共催により、今出川キャンパス明徳館1番教室で開催しました。

八田 英二学長のご挨拶の後、教育開発センター所長 圓月 勝博氏の司会により、初年次教育政策研究センター所長 Randy L. Swing氏、カリフォルニア大学ロサンゼルス校高等教育研究所(HERI)副所長 John H. Pryor氏、教育開発センター副所長 山田 礼子氏によるそれぞれのご発表の後、国際基督教大学名誉教授 絹川 正吉 氏によるコメントと、その後に続くフロアからの質問を踏まえての活発なパネルディスカッションを行い、午後4時30分にシンポジウムを閉会いたしました。以下に各氏の発表とコメントの概要を記載します。

Swing氏は、"The Fourth Lens: Assessing Institutional Policies, Practices, and Structures" 「第4のレンズ-大学における政策、実践、組織を評価するために」というタイトルで、大学における教育政策、教育の実践、組織を評価するための4つのレンズを通しての評価と、評価を通じての改善の実際について、理論的および具体的な事例を発表されました。第1のレンズは学生の家庭背景や入学前の背景をベースにした評価の方法、そして学生が大学のなかで学業や交友関係、課外活動に関る度合いを重視する評価である第2のレンズ、さらには、大学の外部からの評価という第3のレンズと氏が呼ぶアメリカにおける大学教育の品質評価の方法についてレビューされた後、Swing氏ら研究グループが開発し、現在多くの大学が参加している評価方法である第4のレンズについて報告されました。この第4のレンズは、大学における政策、実践および組織にどう大学が関与しているかを組織的レベルで評価するという方法で、現在92大学がこの評価プロジェクトに参加しているそうです。

Pryor氏は、"College Student Surveys and Institutional Improvement in the United States" 「アメリカにおける大学生調査と組織の改善」というタイトルで、アメリカの大学が、教育改善とその効果を証明するために学生調査をする背景と、実際の調査を通じて何が明らかになり、大学が何をなすべきかということを具体的に示されました。特に、UCLAの高等教育研究所(HERI)が開発してきた1年次生用の調査であるCIRPと、その長期的な調査を通じて判明した結果が、いかに多くの大学間で共有され、教育改善のために利用されているかについて、その具体的な方法も含めて提示されました。長期的な調査から明らかになった、大学の教育効果に前向きの影響を与える要素として、学生の家庭や入学前の背景および大学内での学業、課外活動、校友や教員との交流などへの積極的な関与があると述べられました。

山田 礼子氏は、"Improving Learning and Teaching: Through the Results of Student Survey" 「学習と教育の改善に向けて:学生調査の活用」というタイトルで、 2005年度JCSS調査(日本版大学生調査)のデータをもとに、大学間における教育効果についての比較分析結果を紹介されました。氏は、日本で実施されている学生調査の多くが、研究者の研究的関心から行われることが多く、大学という機関が学生に対してどのような教育環境を提供し、成果を挙げ、そして教育改善につなげていくのかというようには調査結果が利用されることが少ないという問題意識に立ち、教育改善のために利用する学生調査の意義とその方法について述べられました。また、複数の機関で教育効果を測り、かつ教育改善へとつなげることを目的として、氏を中心とした研究グループが開発し、実践してきたJCSSの比較調査結果を具体的に示されました。さらに、このようなデータをどのように教育改善に活かすべきかという問題について、先のアメリカの事例を参照しながら、日本における可能性についても言及されました。

3氏の発表に対して、コメンテーターの絹川氏は、各発表について疑問点、および論点をコメントされ、次に教育評価という問題について総合的に論じられました。すなわち、教育評価は、総合的なものであることから、学生調査だけでは評価しきれないものであり、そこに教育評価活動としてFDプログラムを関係させることが不可欠であるという論点を付け加えられ、スィング氏が提示された4つのレンズに対して、教員の資質に関する評価法の開発とそれによる評価を組織的な改善に結びつける評価法の開発を第5のレンズとして付け加えるべきであるという意見を提示されました。

シンポジウムには、本学教職員、学生、他大学等からの参加者を合わせて、100名余りの参加者があり、パネルディスカッションでは、フロアからの様々な質問を含めて、現在の大学における教育改善のための動きや課題に対しての議論が活発に行われ、盛会のうちに全スケジュールが終了しました。